基板に対してhorizontalなのかparallelなのか

光導波路についての特許明細書(特開2017-181963、古河電工)を英訳しています。「基板に対して水平」という、どこにでもありそうな表現を訳していて、引っかかりました。さらりとhorizontal to the substrateと訳せそうで、公開対訳でもそうなっています。また、対になる表現として、「基板に対して垂直」とあり、公開対訳はperpendicular to the substrateとなっています。(ちなみに、光導波路に波長板を差し込む際に遅軸の向きを基板に対して垂直にするか水平にするか、という話です。)

このhorizontalを、perpendicularとverticalとの関係で考えると、よく分からなくなります。というのは、どこかで、垂直はperpendicularであり、verticalと訳しては間違いで、その理由は、perpendicular は直交していればよいけれどもvertical は重力の方向を考えなければならないからだと、聞いたからです。つまり、verticalは鉛直だということです。では、verticalの対語はhorizontalで、水平ということになりそうですが、vertical が重力を考慮しているなら、水平も同様に考慮していることにならないか? 「基板に対して水平」というときに、重力を考慮した表現でよいのだろうか? これを機に少し考えて、これから迷わないために自分の基準を固めておこうと思いました。

自分で理解していることをちょっと整理し、追加で調べてみると:

<これまでの(調べて考察する前の)理解>
垂直 perpendicular 基準の線や面に対して90度で交わること
鉛直 vertical 重力の方向によって定まる上下方向
水平 horizontal 重力の方向によって定まる上下方向に直交する面内の方向

<Merriam-Websterで調べると>
perpendicular(垂直):rising straight up
vertical (鉛直): rising straight up
horizontal (水平): parallel to the ground

<広辞苑第六版で調べてメモすると>
垂直: (1)重力の方向。鉛直。<-->水平。 (2)〔数〕(ア)二つの直線が互いに90度で交わるとき
鉛直: 鉛直線(重力の方向)の方向。
水平: (2)地球の重力と直角に交わる方向。<-->鉛直。

<用語を使ってみると>
・「等重力ポテンシャル面に対して垂直/perpendicular to the equi-geopotential surface」は、無風状態の空中でボールから手を離すと落下していく方向?
・「等重力ポテンシャル面に対して水平/horizontal to the equi-geopotential surface」は、たとえば周回衛星は重力と遠心力が釣り合って等重力ポテンシャル面内を運動していそうだから、等重力ポテンシャル面に対して水平な方向に動くといえる?
・「等重力ポテンシャル面に対して鉛直/vertical to the equi-geopotential surface」は、鉛直がもとから重力を含む用語なら、これはひょっとして「馬から落馬する」のたぐいの表現になるだろうか? 「等重力ポテンシャル面に対して直角/right angle to the equi-geopotential surface」と言うほうが適当だろうか?

<考察>
・horizontalはhorizon(地平線)からも連想するように、地面に平行といえそう。
・重力を考慮しているのが鉛直と水平なら、やはりverticalに対してはhorizontalだろう。
・perpendicular(垂直)は重力を考慮していない数学的な概念だとすると、それと対になるとしたらparallel(平行)だろうか?
・日本語の水平の反対語には、鉛直も垂直もある。
・英語のhorizontalは水平だけれども、その反対語はverticalのみ。(Merriam-Websterの範囲では)
・日本語では「基板に対して水平」と表現できるけれども、英語では、厳密には「horizontal to the substrate」とは言えないのではないか?

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さて、明細書の「基板に対して水平」に戻って考えてみる:
・「基板に対して垂直」とあれば、 perpendicular to the substrateと訳す。
・「基板に対して水平」とあれば、公開対訳はhorizontal to the substrateとなっているが、parallel to the substrateはどうだろうか?
・「基板に対して鉛直」とあれば、基板が物を引っ張る(きわめて弱い)重力を考えているのでない限り、この表現は何かがおかしく、英訳中ならどこかで自分の原文理解が間違っていないか、和訳中ならその周辺で誤訳していないかを見直したほうがよいというサインになる?
・どうも、parallel to the substrateが良さそうに思えてきたが、では、実際に使われているだろうか?

Google検索でwaveguide(導波路)のキーワードと一緒にざっと検索をすると:
・horizontal to the substrateは特許に多い。
・parallel to the substrateのほうが全ヒット数が多い。

<余談に近いがOnline Etymology Dictionary(語源辞典)からつかめるなんとなくの語感>
perpendicular(垂直): 注意深く90度で。
vertical (鉛直): 高いところから下の方向へ。vertexは頂上という意味。
horizontal (水平): 地平線と並行に。
parallel (平行): 何かと同じように。paraは、同じ意味に言い換えることのparaphraseのpara。

ひとまずの結論(方針):
1)「parallel to the substrate」の表現は実際に使われている。
2)この場合の水平は、鉛直に対するものではなく、垂直に対するものだから、重力を考慮するものではない。
3)数学的に、基準となる面に直交する面と面または面と線は互いに平行だから、この場合も基板と波長版の遅軸は平行だと言える。
今回は、上記の理由1)~3)に基づいて、parallel to the substrateのほうの訳語を選んでみようと思います。

いろいろと聞いたり考えたりしても、最後は実際にそのように使われているのを見ると、いちばん安心して用語を使えます。horizontalかparallelかについて、これからも英語文献を読んでいくときに、実際にどう使われているかに気をつけていようと思います。

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